眼鏡用機器メーカー大手のHOYAでは、インターネットを利用した新しいWeb受発注システムを構築した。新システムの基盤には富士通の「Interstage」を採用し、既存のメインフレーム資産を活かしつつ、先端的なシステム環境を実現することに成功。戦略的なビジネスを推進するためのカスタマーポータルとしても活用している。
[ 2002年8月掲載 ]

関矢 聡氏
HOYA株式会社 ビジョンケアカンパニー 情報技術推進部 エグゼクティブ ゼネラルマネジャー
光学ガラスの専門メーカーとして創立以来、60年以上の歴史を積み重ねてきたHOYA。同社は現在、メガネ、コンタクトレンズ、視力測定用機器などの製造を手がけるアイケア事業と、ガラス磁気メモリディスク、LSI製造用フォトマスク、光学・電子機器用レンズなどの製造を手がけるエレクトロプティクス事業を、経営の二本柱としてビジネスを展開している。
一般消費財の低価格化の波は、メガネ・コンタクトレンズ業界にも怒濤の如く押し寄せている。最近は中国・アジア諸国で生産した安価な商品を武器に、アイケア・ビジネスを展開する企業も少なくない。しかし、メガネやコンタクトレンズは、ユーザーの健康に極めて深く関わる商品だ。衣類や生活雑貨類などと同じように考えることはできない。
HOYA ビジョンケアカンパニー 情報技術推進部 エグゼクティブゼネラルマネジャー 関矢 聡氏は「当社は光学製品の専門メーカーですから、製品の品質については絶対の自信を持っています。高付加価値な商品と充実したサービスをお届けすることで、お客様のご期待と信頼に応えていきたい」と、企業としてのスタンスを語る。
こうした姿勢が市場から高く評価され、日本国内におけるメガネ関連製品ではトップシェアを獲得。国際的にもトップメーカーとして認知されている。また高屈折・低比重・低分散の三要素を満たしたプラスチックレンズ「アイリー」や、限りなく裸眼に近い見やすさを提供する遠近両用メガネ「サミットプロ」など、高度な技術力を活かした製品も数多くラインナップ。関矢氏は「お客様にも、眼鏡店様にも、『HOYAの製品なら安心』と感じていただくことが、当社の目指す理想の姿です」と力強く語る。
同じ製品を一度に大量生産できる他の一般消費財とは異なり、メガネやコンタクトレンズはユーザーの視力などに応じた細かいカスタマイズが必要となる。「当社の製品のおよそ6割が個別受注生産品となっています」と関矢氏は説明する。
そこで同社では、ITを業務に積極的に活用することで、サービスレベルの向上に努めてきた。たとえば1994年には、メガネのフレームの形状を3次元で読み取れる「3次元トレーサー」を眼鏡店に設置。フレームの測定データと度数・目のレイアウトといった処方値情報を特注レンズ工場にオンライン送信することで、レンズ一つ一つを最適な薄さ・軽さに設計し、フレームの形状にピッタリ合うようにカットして納品することが可能になった。
「HELPシステム」と名付けられたこのシステムは、当時としてはきわめて画期的な試みであった。最高品質の加工精度のレンズによって「枠入れミスのリスクが低減できる」「レンズ加工用の設備や人員を削減できる」などのメリットが享受できることから、眼鏡店からも圧倒的な支持を得ることとなった。
個別受注生産ではリードタイムの短縮も、大きな課題となる。関矢氏は「納期を守ることはもちろんですが、これをできるだけ早めるような取り組みも行っています。日本国内5特注工場を有機的に稼働させ、サービスを向上させるべく、社内生産・物流システムとの連携も強化しています」と強調する。
メガネ業界においてはもともと、他業界と同様に卸売り企業を経由した流通が主流であった。しかし、同社では眼鏡店との密接なパートナー関係を築くべく、あえて直販方式にこだわっている。
もっとも眼鏡レンズの処方には膨大なパターンが存在するため、電話やファクシミリによる受注ではメーカー側と眼鏡店側の意思疎通がうまくいかない場合も多い。そこで同社では、1970年代前半にTELEXを使ったオンライン受発注システムを開発。関矢氏は「システムを利用することで、受発注業務を正確かつ迅速に行うことが可能になりました」と語る。
さらに1980年代には、PCを利用したクライアント/サーバ型オンラインシステムを構築するなど、その時々の最先端技術を積極的に導入。「眼鏡店様に設置されたクライアントには、『H I T 』(HOYA Intelligent Terminal)と名付けられています。その第1世代の『HIT1』は富士通との共同開発による専用端末でしたが、1996年の『HIT6』ではWindowsマシンに進化。現在は約6,000店強の眼鏡店様が、このシステムを使って当社との受発注業務を行っています」と関矢氏は語る。
同社の眼鏡事業は海外比率が50%を超えており、このグローバル展開を支える上でもオンラインシステムが威力を発揮している。現在は海外16ヵ国・4,000店以上が同社のオンラインに接続されている。
受発注業務の効率化に絶大な効果をもたらしたオンラインシステムだが、時代の変化に伴う新たな改良もまた要求されていた。関矢氏はその背景を「従来のクライアント/サーバ型オンラインは通信手段に電話回線を使用していましたが、最近では高速で安価なインターネット環境が広範に普及し、これをビジネスに取り入れる動きも高まっています。そこで当社の受発注オンラインシステムも、早急にWeb化する必要があると考えました」と説明する。
同社が検討に取りかかったのは、2000年末頃であった。通信サービスの価格は徐々に下がり始めていたとはいえ、ADSLなどのブロードバンド・サービスが現在ほど普及している状況ではなかった。だが、政府のe-Japan構想などを受け「この先、通信コストは必ず下がる」(関矢氏)と読んだ同社では、Webをベースとした新しいオンライン受発注システムの開発を決断。さっそく、構築作業に取りかかった。
重要なポイントとなったのは、いかに既存の資産を活かしつつ新たなシステム環境を作り上げるかである。同社の基幹システムは長年にわたりメインフレームで構築されている。これを一からすべて作り直すのは、コストの面でも開発工数の面でも現実的ではない。「また現在のシステムをご利用いただいている眼鏡店様に、Webへの移行を強制するわけにはいきません。あくまでも現在の環境は今後もそのまま利用可能にし、さらにWebでも利用できるという形にする必要がありました」(関矢氏)。
このように新システムには、メインフレーム上の既存のアプリケーション資産を、そのままWeb環境で利用できることが強く要求されたのである。

上野 勉氏
HOYAサービス株式会社 情報システム事業部 テクニカルスタッフ
こうした要件を満たす製品として、同社が選択したのが富士通の「Interstage」である。
その理由を関矢氏は「当社はグローバルにビジネスを展開している関係上、特定の技術やプラットフォームにロックされてしまうことを望みません。その点、Interstageはグローバルな標準技術に対応し、UNIX、Windows、メインフレームと、幅広いプラットフォームをサポートしています。また、これまで富士通のメインフレームを利用してきましたので、同じ富士通のInterstageならWebシステム連携が容易に実現できるだろうということも考慮しました」と説明する。
Interstageによる新しいWebオンライン受発注システムは、2002年5月に本稼働を開始した。基幹メインフレームには「Interstage for GS」を、Webアプリケーションサーバには、「InterstageApplication Server」を導入。双方の連携も独自プロトコルではなく、標準技術であるCORBAを用いて実現されている。
また、注文した商品のステータス照会など、高いリアルタイム性が要求される場合についてはメインフレームに直接アクセスし、過去の販売履歴検索などリアルタイム性がそれほど要求されない業務については、サーバ側に切り出したデータを使用するといった使い分けをしている。
実際のシステム構築を担当したHOYAサービス 情報システム事業部 テクニカルスタッフ 上野 勉氏は「Interstageを採用したおかげで、基幹メインフレーム上のCOBOLアプリケーションにはほとんど手を加える必要がありませんでした。これには、とても助かりましたね」と満足げに語る。
Webオンライン発注システム構成図

顧客を対象とした本格的な大規模Webシステムは、HOYAとして今回が初めてである。また、業務アプリケーションの開発は数多く行ってきたものの、Java、JSP関連の開発経験はそれほど多くはなかった。
上野氏は「最初は慣れなくて戸惑った面もありました。しかし、JavaやJSPまわりについても富士通が万全の体制でサポートしてくれたおかげで、無事にシステムをカットオーバーすることができました。その後もサービスメニューをさらに充実させるべく、開発作業を続けています」と語る。
現在はWebサーバ、アプリケーションサーバを1台のサーバで兼用しているが、これを今後、2台に増設する予定である。上野氏は「サーバの負荷分散を行うために、『Interstage Traffic Director』も導入しました。これによって、大量アクセスへの対応はもちろん、サーバに万一の障害が起きた際にも業務を支障なく継続することができます」と説明する。
Interstageの導入メリットについて、関矢氏は「まず、端末のメンテナンス業務を大幅に軽減することができる点が挙げられます」と語る。クライアント/サーバ型アーキテクチャーでは、当然のことながらクライアントプログラムのバージョンアップ作業などが必要になる。同社ではオンラインでのダウンロードなども行っているが、それでカバーできない場合に備えて全国にサービス要員も配置している。6,000以上の店舗に設置された端末のメンテナンスを行うのは、決して容易ではない。
これに対して、端末に特別なプログラムを必要としないWebシステムなら、こうしたオンサイト保守の手間を大幅に省くことができる。現在は、全体の1割にあたる約600店舗が、オンラインWeb受発注システムを導入しているが、この数が増えるに従ってメンテナンス業務負荷もさらに軽減できると見込まれている。
Webによる業務環境を提供することで、これまで同社のシステムを導入していない眼鏡店ともオンライン取引を行うことが可能になる。「新規販売チャネルの拡大という意味でも、Interstageは大いに役立っています」と関矢氏は語る。
Webオンライン発注システム画面

Webシステムのもう一つの大きなメリットとして関矢氏は、受発注以外の業務も展開できる点を挙げる。たとえばカタログや新製品の情報などを、いち早く眼鏡店に提供することができる。いわば、セールスやプロモーション機能の一部を、システムに受け持たせることができるのである。
関矢氏は「今回のシステム構築の目的は、単に既存の受発注システムをWeb化するというものではありません。その裏側には、様々なサービスを一元的にご提供する『カスタマーポータル』を実現するというコンセプトがあります」と語る。
その第一弾として、同社では富士通との共同開発による「3次元レンズシミュレーションサービス」を開始した。これはメガネフレームとレンズの組み合わせを、Web上で簡単にシミュレーションできるサービスである。3次元データを使用しているため、ユーザーは完成したモデルを自由な角度から見ることができる。
大きなフレームと度の強いレンズなど、組み合わせによってはユーザーの思い通りの仕上がりにならない場合がある。紙のカタログやフレーム/レンズを単体で見ただけでは、なかなかこうしたところまで予想がつかない。
「その点、このシミュレーションプログラムを使えば、仕上がりをその場で確認することができます。これ以外にも3次元の顔画像とフレーム画像の合成シミュレーションなど様々な新しいコンテンツを用意し、眼鏡店様のビジネスを支援していきたいですね」と、関矢氏は抱負を語る。
この3次元表示の処理システムとバックエンドのレンズシミュレーションプログラム連携も、Interstageによって実現されている。
Interstageは、今後の同社のグローバル展開を支えるインフラとしても活用される予定だ。
関矢氏は「現在は各国の拠点でそれぞれ受発注システムを稼働させていますが、Webを使ったシステムなら、それぞれがサーバを持つ必要はありません。既に新システムには多国語対応機能を組み込んでありますので、今後は世界中のWeb受発注システムを一ヵ所に集約して効率化を図りたいと考えています。Interstageは、こうした場面でも大いに役立ってくれると考えています」と、富士通への期待を語っている。
| 創立 | 昭和16年11月1日 |
|---|---|
| 資本金 | 62億6,420万円 |
| 年商 | 2,368億200万円(平成13年度実績) |
| 従業員数 | 3,142名(平成14年3月31日現在) |
| 業務概要 | 昭和16年、東京都・保谷町(現西東京市)において光学ガラス専門メーカーとして創立。現在はエレクトロオプティクス/ホトニクス事業、ビジョンケア/ヘルスケア事業、クリスタルガラス事業と、情報通信・アイケア・生活文化の幅広い分野にビジネスを展開している。 |
| ホームページ | HOYA株式会社ホームページ |
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