
カネボウ様では、店頭での化粧品販売を行うBC(ビューティー・カウンセラー)の活動を支援するために、モバイルシステム「BCナレッジシステム」を構築し、2002年10月から本格運用しています。これは、全国7000人のBCがPDA(携帯情報端末)を携帯し、商品情報やセールスに役立つナレッジをスピーディーに配信するシステム。コンテンツは動画を駆使して、理解しやすさを追及しています。富士通は、ミドルウェアのInterstage、Systemwalkerをはじめ、PDA端末、サーバなどのハードウェア、アプリケーション開発、さらにはシステムの保守/運用のアウトソーシングまでワンストップで対応。短期開発と信頼性の高いプラットフォーム実現の両立に成功しました。
[ 2002年12月掲載 ]
インターネットの普及とWeb関連技術の進化によって、モバイルコンピューティングの姿が変わろうとしています。
これまでのモバイルコンピューティングは、ノートパソコンを使うことが基本でした。新幹線車内でも、ノートパソコンに携帯電話を接続して電子メールをやりとりする姿が多く見られます。しかしノートパソコンは、コンパクトになったと言ってもまだまだ重く、毎日の出勤に持ち歩くには不便です。そこでクローズアップされるのが、画面が大きくてしかも軽量なPDA(携帯情報端末)です。PDAなら、おしゃれな女性でも、ハンドバッグにしのばせて手のひらの上で使うことができます。
やりとりする内容も変化しつつあります。通信回線の高速化によって、動画を送受信することも可能になってきました。
こうした変化は誰でも漠然と知っていることですが、現実のビジネスに活かしたのがカネボウ様です。
カネボウ様は、化粧品・トイレタリーを中心とした大手メーカーです。5つの事業本部制を敷いており、薬品、新素材やファッションでも独自の境地を築いています。2001年には「ザ・ライフスタイルカンパニー」を宣言しました。美しく健やかで、心豊かなライフスタイルを創造し、提案する総合生活消費財企業を目指すという宣言です。
主力事業である化粧品事業は、売上高5,288億円のうち、2,129億円を占めています(2002年3月期)。販売チャネルとしては、百貨店、ストア、ドラッグストアなどのほか、全国2万5千店のチェーン店を展開しています。
こうしたストアの店頭で、BC(ビューティカウンセラー)と呼ばれる美容部員がお客様への対応をしています。BCの人数は全国で約7,000人。全国に10社ある販売会社の支社に配属する形になっています。BCは、お客様の美容相談に対応するなかで最適な商品を勧めるわけですが、お客様にとってはカネボウというメーカーの目に見える「顔」であり、BCの対応次第で売上が大きく変化するほど重要な役割を担っています。化粧品販売は、やはり、商品の特徴や効能を細かく説明でき、個別対応のできることが重要であり、BCに対して、キメ細かな情報を確実に伝達していくことは、販売促進のうえでは、欠かせないことです。
BCの多くは、自宅から直接店舗へ出勤し、業務終了後は直接帰宅しています。月に1回は販売会社の支社に出社して、集合教育を受けたりしていますが、基本的には直行直帰方式です。そこで各支社のエリアマネージャーが各店舗へ出向いて、本社からの連絡やBCの指導を行っているのです。
新商品の教育は、発売からスタートします。BCは、紙のテキストを受け取りますが、店舗でお客さま対応をしながら新商品の情報を学習するのは難しい。自宅や通勤途中が重要な自己学習の場となります。しかしこれまでは紙のテキストが女性用カバンに入りきらないなどの問題がありました。商品発売前のシークレット情報ですから、テキスト一式を電車の中に置き忘れたりしたら大変です。
問題解決の糸口は、トップ同士のコミュニケーションの中で生まれました。2001年11月、ある会合でカネボウ株式会社の帆足隆社長と富士通の秋草直之社長が顔を合わせて雑談するなかで、社員教育にもっとコンピュータを活用するために、「一緒に取り組んでいきましょう」ということで意気投合したのです。製品の機能や価格比較をする以前に、新しいものへ共にチャレンジしようという気概を共有できることは極めて大切なことだと言えるでしょう。


PDA「BIT(ビューティーカウンセラーインフォメーションツール)」
システム構築にあたっては、理解しやすい、スピーディー、持ち歩きやすい、操作性が良いという4つの要件が、カネボウ様から提示されました。
理解しやすいという要求を満たすためには、コンテンツに音声や動画を取り入れることになりました。TVで流れている商品のコマーシャルを知っておくことも大事ですし、化粧の手順を動画で確認することも必要です。
持ち歩きやすいという要求に応えるためには、ノートパソコンではなく、携帯電話かPDAを使う必要がありました。
「携帯電話は操作性が良いうえ、第三世代の携帯電話であれば動画も扱いやすくなっています。しかし膨大なランニングコストがかかるのが問題でした」と、カネボウ株式会社 化粧品事業部 化粧品システムグループ 係長 吉住進二氏は語ります。携帯電話は基本料金が高いため、全国7000人に動画を頻繁に送るということになると、ランニングコストとして相当な通信料がかかってしまいます。カネボウ様では、PHS網を利用したMVNO(注1)(mobile+)を採用。これなら、一定の帯域を保証されて使い放題で使用でき、ランニングコストも安価に押さえることができます。
「操作しやすい」という要求についてもPDAが有利でした。携帯電話の場合には、操作できるボタンが限られるため、どうしてもメニューの階層が深くなってしまいます。PDAにサーバ側(Javaプログラム)で構築したメニューを表示させればワンタッチでできることを、携帯電話だと何回もメニューとサブメニューを選択しなければなりません。カネボウ様のPDAは128MBのデータ記憶もできますから、複数の動画を受信して、何度も再生して見ることもできます。携帯電話の画面が大きくなったと言っても、モデルの顔を大写しにして化粧の過程を動画で見るといった場合には、やはりPDAのほうに軍配が上がります。
結論として、持ち歩きやすく操作しやすいモバイル端末として、PDAを採用することになりました。
もうひとつ、スピーディーという要求に対しては、富士通のSEも知恵を絞りました。ポイントは、動画のような大きなデータをスピーディーに受信するにはどうするかということです。
「動画を圧縮したりしても限度があり、受信するスピードを格段に速くすることはできません。そこで発想を変えて、夜中、BCがPDAを使っていないときに、翌日に必要となるデータを自動的に送信する方式にしました」と吉住氏は説明します。
発想の転換によって、理解しやすさ、スピード、持ち歩きやすさ、操作性の良さの4拍子そろったモバイルシステムを構築することが可能になったのです。
BCナレッジシステムの開発は、2002年4月にスタートし、8月にはプロトタイプシステムによるテスト使用が始まりました。さらに同年10月に本格運用をスタートし、全国7,000人への展開を3週間で完了したのです。
4ヶ月という驚異的な短期開発と、3週間で全国展開を実現できた背景には、「Interstage」と、「Systemwalker」の存在があります。
7,000人が使うシステムを短期間で構築するためには、できるだけシングルベンダーで整合性が確実に検証されている製品をそろえる必要があります。特にモバイルシステムの場合は、数多くのサーバやPDAなど、さまざまなところでアプリケーションが動くため、問題が生じたときに切り分けがむずかしく、万一の障害に対して、対策が遅れるといった事態が懸念されます。その点、富士通は、ミドルウェアまでワンストップでそろえられるのが強みです。富士通のPocketLOOXやサーバなどのハードウェアと、富士通が自社開発したミドルウェア製品を組み合わせることによって、問題が生じにくく、しかも障害が起きたときにも原因の早期切り分けが可能な、信頼性の高いプラットフォームを構築できました。
また、Webアプリケーションに必要なさまざまな機能を提供している「InterstageApplication Server」を使うことによって、オンライン認証などの機能も短期間で作り込むことができました。
「セキュリティは特に重視したところです。オンライン認証のほかにも工夫を加えて、かなりガンコなセキュリティを実現できました」と吉住氏は自信を込めて語ります。
アプリケーションは、Java対応の開発ツール「Interstage Apworks」を用いて、最先端のJava標準技術を活用しました。サーバ側のビジネスロジックはE JB(Enterprise Java Beans)で、WebアプリケーションはJSP/Servletを使うなど、J2EE標準技術を駆使しています。
システムの保守/運用は、富士通のIDC(データセンター)にアウトソーシングしています。富士通のIDCは、SystemwalkerCentricMGRを使って、ハイレベルな24時間の運用管理を行っています。さらに、DBサーバとアプリケーションサーバなど、複数のサーバにまたがったコンテンツの配信や更新は、SystemwalkerOperationMGRにより複雑な手順が自動化されて効率良く実行されています。
ハードウェア、ミドルウェアから、IDCまでワンストップで提供することによって、短期開発、全国展開と信頼性を両立させることができたのです。
BCが使用するPDAは、富士通のPocket LOOXをベースにしたうえで、外形カラーをピンクに統一したり、アプリケーションを搭載したりして、「BIT(ビューティーカウンセラー・インフォメーション・ツール)」を作り上げました。PocketLOOXは、ワイヤレス通信機能Bluetooth対応で、マイクロソフトの「Pocket PC 2002」というOSを搭載しているため、汎用的なアプリケーション開発が可能です。また、本体の横部分にスクロールレバーがついており、画面スクロールがスピーディーにできるのも他のPDAにない特長です。
BCに送信されるコンテンツは、「あなたへ」「旬の話題」「ノウハウ」の3つのメニューで構成されています。「あなたへ」は、社長、本部幹部、CMのイメージキャラクターなどから激励メッセージを動画やメールで伝達するもの。「旬の話題」は、季節情報や商品情報、TVコマーシャルなどの宣伝情報、新聞・雑誌でカネボウ製品が取り上げられたパブリシティ情報などを連絡するもの。「ノウハウ」は、BC自身から提供される成功事例や売り方情報などを、静止画像や動画を使って、わかりやすく伝達するものです。
コンテンツは、カネボウ本部で作成し、管理端末から専用線経由で、富士通IDCのDBサーバへ送信されます。さらに、他社にない独自コンテンツを開発するために、富士通のグループ会社へコンテンツ管理をアウトソーシングしています。
PDA「BIT」からのオンライン接続は、PHS網(MVNO)を利用して、128Kbpsを確保しています。それでも7,000人の利用ですから、コンテンツ配信は、夜間に自動配信しておきます。利用者であるBCは何も操作する必要はありません。BITの電源ONの時刻は、前日のコンテンツ配信時にソフトウェアで自動的にセットしています。その時刻になるとBITの電源がONになり、サーバへのアクセスとコンテンツのダウンロードを開始します。受信が完了したら、また次回配信の電源ON時刻をセットして、電源をOFFにするところまで完全自動です。
「電源ONの時刻をこまめに設定しているのは、通信回線の混雑を回避するためです。7,000人が同じ時刻にアクセスする事態は避けなければなりません。地域単位、コンテンツ単位でこまめにデータ配信時刻を管理しているのです」と吉住氏は説明します。
このほかにも、予期しない画面が表示されたら、電源をON/OFFするだけでホームに戻れる仕組みにしているなど、誰でもマニュアルなしに安心して使いこなせる工夫が行き届いています。
「BCナレッジシステム」というネーミングに現れているとおり、このシステムは一方通行の情報提供ではなく、ベテランBCが持っているノウハウを吸い上げて全国のBCへフィードバックし、さらに高度なナレッジとして共有することを目指しています。したがって、データ活用状況を本部が把握できる仕組みも備えています。
「みんなに頻繁に利用されるコンテンツは何か、拡販に役立つ情報は何であるかを把握してその分野の充実に努めるなど、ナレッジマネジメントシステムとして、ブラッシュアップを重ねていく計画です」と吉住氏は抱負を語ります。
BCナレッジシステムの活用によって、売上のアップを実現したい。これが、新しいモバイルシステムに賭けるカネボウ様の意気込みです。

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